勝ち馬は?〜最後の直線の攻防


<ゆったりとした流れの向こう上面>

 サクラスピードオーが逃げて第1コーナーから第2コーナーへ向かうが、それほどペースが上がらない。ゆったりとした流れで向こう正面の直線を進んでいく。ターフビジョンで隠れてはっきりは見えないが、前半の1000mは1分1秒程度で通過。昔のような多頭数だとTV馬と呼ばれる玉砕的な逃げ馬も多く、前半が58秒くらいのハイペースになることもあったが、近年はゆったりした流れになることが多い。このペースだと後ろ過ぎる馬はつかまらない。ダンスインザダークは絶好の位置だが、ロイヤルタッチやミナモトマリノスはちょっと後ろ過ぎるか?

 第3コーナーを過ぎるとペースが上がってくるもの。しかしサクラに乗った蛯名騎手の作戦か、それほどペースは早くならない。武のダンスはまだ仕掛けずじっと手綱を持ったまま。大欅(おおけやき)の向こうを通り第4コーナー。そして最後の直線へ。

<最後の直線の攻防>

 相変わらずサクラが逃げる。逃げ切るには直線の入り口でもう少しリードが欲しいところだが、ペースが上がらない。すぐにダンスが仕掛ける。直線の坂(きつい上り坂がある)の手前ですでにサクラを捉え、先頭に立つ勢いである。手応えはよい。いよいよ武もダービージョッキーになるのだろうか。誰もがそう思った瞬間、外からオレンジ色の帽子が伸びてきた。13番。あれはなんだ?とっさには馬の名前は浮かばなかった。

 その馬は我々の前を通過するとき、すでにダンスを射程圏に捉えていた。そしてぐんぐん伸びる。ダンスがわずかに力尽きたとき、そこがゴールだった。
 慌てて新聞を取りだし、13番の馬を確認する。フサイチコンコルド。そう言えばフジテレビの本場馬入場の各馬紹介で「関西の秘密兵器」と紹介されていた。今までラグビーボールやロングシンフォニーなど、ダービーで「関西の秘密兵器」と称された馬は数多いが、勝利にまで至った馬はいなかった。

 フサイチコンコルド。2戦2勝、わずか3戦目でダービー制覇は史上初。しかも前走から2ヶ月半の休養明け、途中東京のレースに登録、輸送までしたものの熱発で回避。そんな不安要素を全て吹き飛ばすような見事な勝利であった。鞍乗は武騎手の弟分とも言える藤田伸一騎手。ここに常識破りのダービー馬と、若いダービージョッキーが誕生した。



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